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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

バサバサっとのぞみの腕からこぼれたノートが
散らばった。
構わずに僕はのぞみの手をとり、
外に向かって走った。
自転車置き場で自分の自転車にまたがって、
後ろの荷台を指した。

「どこ行くの?」
「いいから、乗って」
「5時間目、始まるよ?」
「乗れって!」

僕は、のぞみに執着しずぎているのだろうか。
子どもの頃からずっと一緒にいて、いつの間にか
それが恋愛感情に変わっていた。他の誰にも
恋をすることなく、いま、僕の背中に
頬をくっつけているのぞみだけを
こんな風に想って行くのだろうか。

「秋だねー」

突然授業をサボらされ、
自転車に乗せられたというのに、
のぞみは僕の背中でのんきに秋の風を
感じている。
僕はいつも、のぞみに救われてきた。
その広い心と、無邪気な笑顔に。
どうでもいいことにこだわって、
いつも頭の中で考えすぎる僕とは正反対の
君に。
どうして、こんな僕についてくるんだ?
どうして、あの日、要でも真緒でもなく、
僕に電話してきた?
自転車のブレーキが、耳障りな音を立てた。
夏休み、のぞみと二人で花火を見た土手に
着くと、自転車を降りたのぞみが言った。

「あの橋を、一生懸命自転車こいで、渡って来てくれたんだよね」

何のことかわからずにいると、
のぞみが僕を見上げて、お母さんが死んだ日、
と言った。

「初めて授業サボったよ」
「…おれも」
「はー。気持ちのいい罪悪感」

土手の短い草の上に寝転んで、のぞみは空を
見上げた。
僕はのぞみの言う矛盾した言葉がおかしくて
笑った。

「何でこんなことしたの」
「…理由なんてないよ。あ、ある。理由」

のぞみの隣に、少し間を空けて座った。

「なに?」
「のぞみが、こんな手紙よこすから」

僕はポケットから、元通りにできずに
四つに折っただけの手紙を出した。

「こんなこと、書くからだよ。だから、早くのぞみに会いたかった…」
「り、流星」

僕は爆発しそうな心臓をどうすればいいか
わからずに、寝転んだのぞみの真上から
両手をついた。

「…一緒に大人になる。のぞみと」

僕は、真っ直ぐのぞみの目を見て、
手紙の返事をした。


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