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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

自転車置き場で、のぞみは僕を待っていた。
荷台に座って足をぶらぶらさせながら
グラウンドの方を向いている。
フェンスのむこうでは、陸上部が
スタートダッシュの練習をしていた。
僕はすぐにのぞみの側には行けなかった。
髪が、秋の風になびいて、それを片手で
押さえるしぐさを離れた場所から見ていると、
のぞみが僕に気づいた。

「あれ、あの練習、流星もよくやってたよね」

少し大きめの声を出すから、僕は仕方なく
のぞみの方に歩いた。

「うん…そうだな」
「どうしたの?」

なんで、あんなことしたんだろう。
そればかりが頭のなかを回っていて、
のぞみが何か話していたような
気がするのに、覚えていない。

「じゃあな」
「うん、また明日ね」

うちの前で別れて、僕は振り向きもせず
中に入った。
午後の授業はサボるし、一緒に帰っていても
上の空だし、絶対あやしまれてる。

「あ、流星おかえり」

珍しく母さんが仕事から帰っていた。

「今日病院に検査結果、聞きに行ってきたのよ」
「あー、忘れてた。今日か」

母さんは数値の書かれた紙を広げて見せた。

「見て、一応寛解だって。良かったねえ」

そう言えば最近、全くと言っていいほど
痛みはなかったし、食欲も戻っていた。

「そうか…わかった」

それだけ言うと、僕は二階の自分の部屋に
上がった。
制服のまま床に寝転んで、天井の染みを
数えた。
気を紛らそうとしても、うまくいかない。
母さんは、良かったと言って喜んだが、
違う。
僕は次に来る『再発』という恐怖に怯えた。結局どう転んでも僕が病気から逃れることは
できない。
せめて、少しの間だけ忘れたいな。
勉強のことや、のぞみのこと、学校の友達や
本のこと。走ること。走りたい。
それで頭のなかをいっぱいにしたい。
少しの間で、いいから。


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