
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「流星ー。電話!」
制服のまま、うとうとしていた。
窓の外はもう暗かった。
いつの間にか帰っていた姉ちゃんが、階下から
呼んだ。僕は子機を取って電話に出た。
「…はい」
『紺野です。…ごめんね、急に』
「いや…大丈夫」
電話を通した紺野の声は、いつもより
落ち着いて聞こえた。
うたた寝していたせいか、放課後の出来事は
ずいぶん前のことのように思えた。
『あの…ごめんね、小野塚くんにあんなことさせて』
電話の向こうから、水をはねるタイヤの音が
聞こえた。
窓の方に視線を向けると、無数の水滴が
当たっては流れていた。
「いま、どこにいる?」
そう聞くと、今度は踏切警報器の音が
聞こえた。
「待ってて、そこで」
僕は子機をベッドの上に放り投げて、
わずかに汗を吸った制服のシャツを脱いだ。
たたんだまま、クローゼットにしまい忘れて
いたパーカをかぶり、ジーンズに脚を通した。
バタバタと階段をかけ降り、母さんが何か
言ったのも聞かず、僕は雨の中に飛び出した。
ちゃんと、謝らなければ。
僕はひどいことをした。
今は、それしかわからないけれど。
駅のロータリーにある電話ボックスに、
紺野がいた。
隙間、というには広すぎるほど開いた
扉の下から、紺野の濡れたローファーが
見えた。
「紺野!」
「小野塚くん…雨…」
ガラスの扉を引くと、長い髪も
制服のジャケットも雨に晒された紺野が
立っていた。
「ごめん…紺野は…女の子なのに、傷つけて、ごめん…」
「私も、…卑怯でごめん」
なんで、こんなことを言わせてしまったん
だろう。
僕がもっと、ちゃんと気持ちを伝えていれば
良かったのに。
電話ボックスから、背中だけ雨に打たれて、
パーカのフードが重みを増していた。
一歩前に進めば、濡れずに済むのに
それができない。
「だめだな…」
紺野が顔を上げて言った。
「だめだよ…小野塚くん。こういうことするから、もっと好きになっちゃうんだよ」
「じゃあ…どうすれば良かった?」
「わかんない…小野塚くんが、絶対来てくれると思ったから、ここから電話した…」
僕は、まんまと紺野の策略にかかった。
だけど、何なんだろう。
喉の奥が、痛い。
紺野の、こんな表情を見るたびに痛むんだ。
制服のまま、うとうとしていた。
窓の外はもう暗かった。
いつの間にか帰っていた姉ちゃんが、階下から
呼んだ。僕は子機を取って電話に出た。
「…はい」
『紺野です。…ごめんね、急に』
「いや…大丈夫」
電話を通した紺野の声は、いつもより
落ち着いて聞こえた。
うたた寝していたせいか、放課後の出来事は
ずいぶん前のことのように思えた。
『あの…ごめんね、小野塚くんにあんなことさせて』
電話の向こうから、水をはねるタイヤの音が
聞こえた。
窓の方に視線を向けると、無数の水滴が
当たっては流れていた。
「いま、どこにいる?」
そう聞くと、今度は踏切警報器の音が
聞こえた。
「待ってて、そこで」
僕は子機をベッドの上に放り投げて、
わずかに汗を吸った制服のシャツを脱いだ。
たたんだまま、クローゼットにしまい忘れて
いたパーカをかぶり、ジーンズに脚を通した。
バタバタと階段をかけ降り、母さんが何か
言ったのも聞かず、僕は雨の中に飛び出した。
ちゃんと、謝らなければ。
僕はひどいことをした。
今は、それしかわからないけれど。
駅のロータリーにある電話ボックスに、
紺野がいた。
隙間、というには広すぎるほど開いた
扉の下から、紺野の濡れたローファーが
見えた。
「紺野!」
「小野塚くん…雨…」
ガラスの扉を引くと、長い髪も
制服のジャケットも雨に晒された紺野が
立っていた。
「ごめん…紺野は…女の子なのに、傷つけて、ごめん…」
「私も、…卑怯でごめん」
なんで、こんなことを言わせてしまったん
だろう。
僕がもっと、ちゃんと気持ちを伝えていれば
良かったのに。
電話ボックスから、背中だけ雨に打たれて、
パーカのフードが重みを増していた。
一歩前に進めば、濡れずに済むのに
それができない。
「だめだな…」
紺野が顔を上げて言った。
「だめだよ…小野塚くん。こういうことするから、もっと好きになっちゃうんだよ」
「じゃあ…どうすれば良かった?」
「わかんない…小野塚くんが、絶対来てくれると思ったから、ここから電話した…」
僕は、まんまと紺野の策略にかかった。
だけど、何なんだろう。
喉の奥が、痛い。
紺野の、こんな表情を見るたびに痛むんだ。
