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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「そう言えば…理数科は文化祭、何するの?」
「数独カフェ…」
「すうどく?」
「数字のパズルみたいなもん…おれも最近知ったけど、なかなかハマるよ」
「わー…さすがだね…ていうか、難しそうだしお茶してる場合じゃないよね」
「確かに…あ、でもすごくキレイなんだ。数字の羅列にしか見えないんだけど、あれって実は…」

僕は大好きな数学の話に夢中だった。
それまでの混乱した感情はどこかに消えて、
ひさしぶりに好きなことを話した。
好きなことを好きなだけ、僕は話し続けた。
心から楽しいと思えた。

「ごめん。おればっか喋ってる」
「ううん。私、流星が話すのを聞くのが好きなんだ。…だって流星、今まで色々あったんでしょ?お父さんの会社のこと以外にも色々…時々上の空だったり、すごく無口だったり、人を寄せ付けない雰囲気の時もあった。でも流星には流星の世界があって、入っちゃいけないんだなって何となく思ってて…だけど私わかってるつもりだよ。流星は本当は何も変わってない。流星は私のヒーローなんだ。幼稚園の頃からずっと、私を守ってくれるヒーローなの」

ほら、また。
君といると、僕の短い人生が
こんなにも鮮やかに彩られていく。
あっという間に、君で心が満たされていく。

「流星…大好きだよ。これからも一緒に、色んなもの、見ていこうね」
「…16になるまでの間も、ずっと一緒だったじゃん」
「ほんとだ。ねえ、お母さんより長く一緒にいるんだ、私と流星。すごいね、運命だね」

何気なく君が口にした、『運命』という言葉が
僕の脳裏からずっと離れなかった。
紺野に気持ちが揺らいだとか、
病気の再発が怖いとか、
そんな僕のなかに起こる波の全てが、
君という存在の中にあるような気がした。
僕は偶然にも数ヶ月だけ、君より先に
この世に生まれた。
数ヶ月だけ、君が生まれてくるのを待っていた。
そして、今日までのほとんどを
一緒に歩いてきた。
君のいない世界は考えられなくて、
君といない僕はもっと考えられない。
僕は、いまのぞみのことだけを考えていた。

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