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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

僕とのぞみが一緒に暮らし始めて、半年が
過ぎた。
春が来て、夏が過ぎ、駆け足で秋が終わろうと
している。
医学部2年生は、覚悟していた以上に忙しくて
実習やテストが次々行われ、文字通り目が回り
そうだった。
もし、今も僕の仮説を立証するための実験や
研究が行われていれば、忙しさはこんなもの
じゃなかっただろう。
十河先生の研究室では、なかなか結果が
出せずにいた。元はと言えば、十河先生が
かなり無理矢理大学にかけあって始めた研究
だった。
所詮学部生の思いつきの仮説だ。
最初から期限を切られていたらしい。前期中に
何らかの発表ができなければ、打ちきること
と。
そのことを告げられたのは、7月。
ちょうど四人で集まる約束をしていた日
だった。
悔しくて、やりきれなくて、何度も十河先生に
頼んだ。でも研究費用が出ないのだから
どうしようもない、と。
国立大学なのだから、仕方がなかった。
予算には限りがあり、最も必要とされる研究に
より頭脳と費用をかけなければならなかった。
同じ頃、だましだましやってきた病気の再発が
無視できなくなっていた。
時々襲ってくる痛みが、僕を弱くさせた。
強い痛み止めを使うと、体力が奪われた。
それでも僕は、いつもと同じ毎日を過ごした。
いま、入院しても意味のない延命治療が待って
いるだけだ。
余命なんてものは信じていなかった。
信じているのは自分の力だけだった。
それは、余命という言葉を自分に使う日が
来るなんて、想像などしていなかったからだ。
僕はその命のギリギリまで、のぞみを奪う
かもしれない病気のことを考えていた。
自分の病気よりも。
そして僕は、その方法に思い至った。
馬鹿げているし、現実的ではないし、自分でも
おかしくなったかと思った。
でも、僕は疲れきっていた。
14歳の、ほんの子どもの僕から、大好きだった
陸上を奪ったこの病気に。
一時は寛解までこぎつけたのに、そのあとは
ずっと再発を恐れた。本当に怖かった。
いつも、何をしていても頭の片隅にあった。
それでも僕は、医師になる目標をあきらめな
かった。
のぞみを、たったひとりの大切な女の子を、
未来の病魔から守るために。

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