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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「のぞみ。二十歳の誕生日おめでとう」

去年の誕生日は、少し過ぎていたし、見たく
ないものを見たおかげで心から祝えなかった。
だから今年は、誰よりも早く言おうと決めて
いた。
だけど当の本人は忘れていた。
僕の二十歳の誕生日には、一週間も前から何が
欲しいか、何が食べたいか根掘り葉掘り聞いて
きたくせに。
プレゼントのポケベルを渡すと、のぞみは
照れたように笑った。
お揃いの、小さなポケベルを握りしめて、
なんか送ってよ、と言うから僕は電話の子機を
取って、覚えたての番号を押した。
しばらくするとのぞみのベルが震えて光った。
そのディスプレイを見て、のぞみはまた笑った。

「ありがとう。…合格発表の日、初めての…あの時以来だ」
「そうだっけ?」

僕はその言葉を、今日まで意図的に使わない
ようにしていた。
僕なりに、大事にしてきた。

「あ、い、し…」
「ちょ、声に出すなって!」
「あはは…照れるね」
「ほら、見て」

僕の青いポケベルを裏返して、学祭でのぞみと
撮ったシールの写真を見せた。

「流星がそんなことするなんて意外」
「え?そうかな。普通の二十歳の男子だって言ってんだろ。今からだって…」
「ん?」

僕はこたつ越しにのぞみにキスをした。
あと何回こんな幸せなキスができるのだろう。
あと何回、のぞみと抱き合って眠ることが
できるのだろう。
その夜僕は自分の中にあるのぞみへの気持ちを
全て注いだ。
快楽に歪んだ表情も、高く細く闇に消え入りそうな声も、僕の背中を抱き締める小さな手も
のぞみはその全てで応えてくれた。

「流星…私の願い事、かなえてくれるのは、流星だけだよ…」

今にも眠りそうになりながら、途切れそうになる意識を必死につなぎとめながら、のぞみは言った。

…大好きだよ。

こんなにいとおしい誰かが僕の人生にいたこと
僕は絶対に忘れない。
僕はのぞみの冷たい髪に顔をうずめ、離れたくないと何度も思った。
…僕らは、いつかまた並んで歩ける日が来るのかな…?
姿がかわっていても、見つけてくれるかな。その笑顔で「流星」と呼んでくれるかな。
死にたくない。
どんなに苦しい試練が僕に課せられても、乗り越えてやる。だから、死にたくない。
襲ってくる痛みが、徐々に強くなり、僕は目を
閉じた。
目を閉じると、深い海の底に沈んでいくように
全身の力が抜けた。

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