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20年 あなたと歩いた時間

第13章 そして

いつもと変わらない通学路なのに、まるで
現実感がなかった。地に足をつけて歩いている
というのに、その実感がなかった。
ふわふわして、身体の外側に薄い膜が張られて
いる感じがした。
流星のことで頭がいっぱいだった。
流星の生きたかったという気持ちが、そのまま
僕に植え付けられた。
もう、僕は自分と流星の境界線がわからなく
なっている。
自分の母親でさえ、「のぞみ」に見えてくる。
…流星が愛していた、「のぞみ」。
なぜ誰も話してくれなかったのだろう。
流星の、生への執念。
自分の未来を知った時の絶望。
医師を目指した理由。
なぜ、僕がこの世に存在するのか。
探していた答えを全部手に入れた気がした。それはとてつもなく重く濃く僕にのしかかって
きた。
苦しくて、うずくまった。
さわさわと音をたてる桜の木の下。
深い緑色の葉が重なるその隙間から、小さな
光が幾重にも重なり、僕の背中に突き刺さる。
痛みも熱も感じないのに、それは容赦なく僕の
内部をえぐりとろうとする。
『真島広輝』が消えていく…
この感覚こそが、流星の感じた『最期』だと
僕は知った。

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