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20年 あなたと歩いた時間

第13章 そして

僕はその日から、学校に行かず家で過ごす
ことが多くなった。
たくさんの記憶がいちどに押し寄せて、
新しいことが考えられなくなった。
ずっと流星の記憶に支配されていた。
心配した母さんに連れていかれた病院で薬を
処方され、寝ているだけの毎日だった。
薬は飲む振りをした。

「広輝。心配しなくていいよ。流星もそんなことがあったから」

母さんが僕の部屋のドア越しに言った。
ところが僕は、全く心配などしていなかった。
あんなに知りたかった流星のことが自分の
経験のように移植されて、本望だった。
ずっと浸っていたかった。
この記憶が定着したら、僕は本当に流星の
人生の続きを生きる。決めたのは12歳の時
だった。やっとその日が来る。
曖昧な覚醒と睡眠を何日も繰り返し、
いつのまにか体は軽くなっていた。
…と、こんな風に書くととても非現実な
オカルトの世界を感じるが、僕は至って普通の
病人のように過ごしていた。
少ないながらも3食たべ、時々はベッドから
起き上がり、窓を開けては外の空気を吸い込み
季節が移り変わるのを感じた。
タブレット端末に取り込んだ音楽を聴き、
本を読み、テレビで世の中の動きを知った。インターネット電話で夜中に陽子叔母さんと
再生医療について何時間も語り合った。
そうして季節がひとつ過ぎる頃、僕はある
決断をした。
まもなく僕は、16歳になる。

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