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20年 あなたと歩いた時間

第2章 16歳

台風がひとつ、ふたつと去っていく度に
吹く風はひんやりとし、高校に入って
初めての夏は終わろうとしていた。
二学期。
夏の間に伸びた髪や、少し焼けた肌が
クラスの女の子を大人びて見せていた。
そんな彼女たちを少しうらやましく思いながら
私は教室の後ろでぼんやりと外を眺めていた。
グラウンドでは、流星のクラスの男子たちが
百メートルのタイムを計っていた。
誰かがゴールするたびに、わっと歓声が
上がる。
流星の番だ。
ジャージの袖を捲り上げ、地面を蹴って走る。
長身が風をきって、隣を走る男子との差は
どんどん開いた。
私は、初めて見た流星の試合を
思い出していた。あの時も、流星は
誰よりも速く誰よりも伸び伸びと、
風になったように走った。
走る流星は誰よりも美しいと思った。
それなのに父親の会社が倒産したことで、
彼なりに様々な思いの中、
走ることをやめた。
高校でも陸上部の誘いを断り、
トラックに何の未練もないような
ふりをしている。本当は、走りたいんだ。
「目標が変わっただけ」だなんて、
優等生の流星が言いそうな、
おりこうさんな答えだ。
世界一のランナーになりたいって
いつも言っていた。
走ってると、嫌なこと全部忘れて
周りの空気と一体化するんだ。
その感じがたまらない、と言っていた。

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