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20年 あなたと歩いた時間

第2章 16歳

全力疾走した流星はゴールして
グラウンドに寝転んだ。その頭上に、
クラスメイトがストップウォッチに刻まれた
タイムをかざした。そしてまた、
新たな歓声があがる。
流星を中心に、ひとつの輪ができた。
少し、心が痛んだ。
流星のまわりにはいつもたくさんの人が
いる。要や真緒や、私じゃなくても、
誰からも好かれる流星のことをみんなが
見ている。
ほら。今も。
グラウンドの隅、幅跳びの順番待ちをしている
女子の列の中に、私は見覚えのあるふわふわの
女の子を見つけた。
そして、その子の視線の先にいるのが、
誰であるかも。
持っていたシャープペンシルが、かた、と
音を立てて転がった。
斜め前の男の子が気づいて拾ってくれたが、
ありがとうの声がかすれて伝わらなかった。
喉が、カラカラに渇いていた。
気がつくと、グラウンドにいた生徒は
教室に引き上げるところだった。その時、
こちらを見上げた流星と目が合った。
友達と笑い合う続きの笑顔で、
すぐに目をそらせたけれど、
流星は笑っていた。私がいなくても、
流星は笑う。
流星が、好き。
私は、まだ流星に自分の気持ちを
伝えられていなかった。
伝えたらもう、今までのような
子どもの純粋さで一緒にはいられない。
あのふわふわの彼女。
紺野さんは、流星に好きだと言った。
流星も、紺野さんを好きになろうと
している。
私も、流星が好き。
手も背中も肩も髪も、
左右で少し大きさの違う目も、
全部好き。
でも、私は流星の全部を知らない。
知りたいと思うほどの勇気と自信が、
私にはまだない。

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