テキストサイズ

20年 あなたと歩いた時間

第1章 14歳

昔はかわいい女の子みたいだったのに、
いつの間にか低く落ち着いた声で
流星が言った。
男の子は急に背が伸びたり声が変わって、
困る。
どんどん大人っぽくなっていくのに、
中身が子どものままなのだ。
それでも、いつも流星は
さらっとかっこいいことを言ったりする。

「うーん。ないかも」
「…言葉で表すのは難しいけど、いやなこと全部忘れる感じかな。自分にくっついてるいやなことが、風に流されていく気がする」
「いやなこと…」

流星にもいやなことがあるというのが
衝撃的だった。嫌なことも、
いやとは思わず流すことができると
思っていたから。

「スカウトの人も見に来るみたい」
「スカウト?」
「高校の陸上部の」

うちの中学校の陸上部は結構強いらしく、
その中でも二年生の流星に
目をかけてくれている高校の先生がいると
要から聞いたことがある。

「…流星、陸上で高校行くんでしょ?」
「行かないよ」
「え?」
「デカイ声では言えないけど、部活は趣味だよ」

流星はいつもの流星らしく、
冷静に淡々と言葉を適切に選択して言う。

「別に陸上で生きていきたいわけじゃない。でも好きでやってるから一生懸命する。それに自分の実力を客観的に見られるだろ、スカウトされたら。おれって見込みあるんだな、ってさ」

緩い上り坂が
じわじわと心臓をしめつけ始めた。
普段の通学は徒歩なので、
自転車をこぎながらとは比にならないのだ。流星は呼吸を乱すことなく
ペダルを踏み続けている。

「ちょ…流星、待って」
「体力ないな。あ、体力だけじゃねーか」
「…っとにもう、先行っていいから。うるさいな!」
「はいはい。じゃあな」

自転車を降りて肩で息をしていると、
流星の姿はかなり小さくなって、
坂のてっぺんで自転車に乗ったまま
手を振っていた。
そこから大きく声を張り上げて言った。

「暇なら試合見に来る?十時から!県営競技場!」
「…気が向いたらねー」

その先で先輩に会ったらしく、
大きな声で挨拶する流星の声が聞こえた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ