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20年 あなたと歩いた時間

第5章 20歳

「のぞみ、ごめんな。試験はうまく行ったし、のぞみは何も悪くないんだ。ただ…」

狭いベッドに入り、電気を消すと流星は
また、ごめんと言った。

「真緒と要がうらやましかったんだ」

流星は、一気にそう言って私を抱きしめた。
こんなとき、流星もちゃんと普通の
大学生なんだなと思う。
友達から聞く、彼氏の話と同じ。
少しほっとする。焦ったり嫉妬したり、
カッコ悪い流星をもっと見せてほしい。
そんな流星も、私は大好きなのに。
Tシャツ一枚ごしに、流星の高い体温が
伝わる。久しぶりの、ぬくもり。
さっき思った通り、少し痩せた。
髪を撫でる大きな手が、背中に降りた。

「あの二人、何の不自由もなく大学に通って、遠距離っつっても毎月会って…いや、ただのおれのやっかみなんだけどさ…もし、って言葉でいっぱいだった。ずっと」
「もし、もっと時間があったら?もし、学費の心配がなかったら?」
「それもあるけど…違う。もっと単純」
「単純?どういうこと?」
「『もし毎日のぞみを抱けたら』」
「え?何それ」
「言ったじゃん、おれ、健康な二十歳の男子だって…」

そう言って流星は私にキスをした。
深い、深いキス。心が感じる、流星のキス。
熱に浮かされたように熱くなる体は、
その先を求めていた。
流星は、私のパジャマのボタンを外すのも
もどかしく、首筋や胸に口づけた。
その息が熱かった。
私の名前を呼ぶ余裕すらなく、
つながろうとした。

「ごめん…我慢できない…」

初めての激しさで、流星は私に
欲望をぶつけた。何度も、何度も。
私は必死で流星にしがみついた。
こうすることで、流星の心の均衡が
保たれるのなら、私は全然構わない。
流星のモヤモヤ、全部受け止めてあげるから。

記憶にある、この頃の流星の表情は
いつも疲れていた。それまでの、
私の大好きな流星の笑顔は
あまり見られることがなかった。
それでも、この夜見せた流星の真剣な瞳は、
信じるには十分だった。
私達の現在も、未来も、全部。
私達は自分のことを頑張るしかなかった。

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