秘密の兄妹
第8章 天使と悪魔
ある雨の日、学校の校門を傘をさして歩いていると、お兄ちゃんの友達が学校のバス停の前に立っていた。
あっ、あの人確か…お兄ちゃんとよく一緒にいる橘さん?
……傘…持ってない……
橘さんって、家の一番近くのバス停から家までけっこう歩いて時間がかかるって、前にお兄ちゃんがぼやいてたよね……
「…………」
私はバスを待っている橘さんに声をかける。
「橘さん。」
橘さんは私の方を向く。
「あれ?…紫織ちゃん。」
「あのっ、もしかして傘持ってないんですか?」
私は橘さんの両手を見て、傘がないのを再度確認する。
「ああ、持ってくるの忘れた。雨降るって言われてんの知ってたけど、朝、バスに乗り遅れて遅刻しそうになって…」
…長時間歩いて雨に濡れたら、風邪引いちゃうよね……
「橘さん、この傘、使ってください。」
私は自分の傘を橘さんに差し出した。
「え?でも、それだと紫織ちゃんが濡れちゃうよ。」
私は笑って答える。
「私は学校に、折り畳みの置き傘がもう一本あるんです。それで帰りますから使ってください。この傘、ビニール傘だし返してくれなくていいですから。」
「…いいの?」
「はい。」
「じゃあ…遠慮なく。ありがとう、紫織ちゃん!」
橘さんは嬉しそうに笑って、私から傘を受けとる。
私は頭をペコッと下げると、傘を取りに雨のふる中、中等部の昇降口に向かった。