あなたへ
第1章 あなたへ
都会の町中はずいぶんとクリスマスムードに染まって賑やかになった。
そんな都会を知らないままここの時間が流れている。
いや、もしかしたらあの時のまま止まってしまっているようにすら感じる。
大阪のなかでも田舎にあるこの小さな無人の駅にはひっそりとした風が吹き、外から友人を連れてくると皆大阪にもこんな場所があったのかと驚くほどの景色が広がっていた。
この景色を幾度となく見ては離れていきを繰り返した日々。
どんよりとした雲を見ながら過去がゆっくりと流れ行く。
寒空のもとで、俺の肩が寂しくただ震えていた。
彼一人の仕事が増えたことで俺との会う回数はずいぶんと減った。
そのことを伝えると、久しぶりにあの店行こうやと誘われた。
昔、二人の憩いの場となっていた小さなうどん屋はこの駅を出て長い坂を越えた先にあった。
しばらく待つと、駅に止まった電車からはらり、はらりと人が降りてきた。
年忌の入った改札に一人ずつ切符を通していく。
その様子をぼんやりと見ているとひとつの足音が俺の前で止まった。
「…待たしたな。」
「ほんまやで。…凍えて死ぬかと思ったわ。」
茶色いダウンジャケットのポケットに手を入れたまま、ひなは歩きだした。
俺も固まった足をほどきながら着いていく。
「打ち合わせ長引いてもうて。」
「ひな、仕事し過ぎや。」
「しゃあないやんけ。断るんも申し訳ないし。」
葉がすっかり落ちたいちょう並木の道を少しの距離を置いて歩く。
その間を北風が足早に駆け抜けていく。
「あんま仕事し過ぎんなよ。」
「なんでそうなんねん。」
「……そうなるからや。」
「どう言うことやねん。」
乾いた微かな笑い声が零れる。
こうして落ち着いた時間を二人で過ごせる日が来るとは若い頃の自分にはわからなかっただろう。
そんな都会を知らないままここの時間が流れている。
いや、もしかしたらあの時のまま止まってしまっているようにすら感じる。
大阪のなかでも田舎にあるこの小さな無人の駅にはひっそりとした風が吹き、外から友人を連れてくると皆大阪にもこんな場所があったのかと驚くほどの景色が広がっていた。
この景色を幾度となく見ては離れていきを繰り返した日々。
どんよりとした雲を見ながら過去がゆっくりと流れ行く。
寒空のもとで、俺の肩が寂しくただ震えていた。
彼一人の仕事が増えたことで俺との会う回数はずいぶんと減った。
そのことを伝えると、久しぶりにあの店行こうやと誘われた。
昔、二人の憩いの場となっていた小さなうどん屋はこの駅を出て長い坂を越えた先にあった。
しばらく待つと、駅に止まった電車からはらり、はらりと人が降りてきた。
年忌の入った改札に一人ずつ切符を通していく。
その様子をぼんやりと見ているとひとつの足音が俺の前で止まった。
「…待たしたな。」
「ほんまやで。…凍えて死ぬかと思ったわ。」
茶色いダウンジャケットのポケットに手を入れたまま、ひなは歩きだした。
俺も固まった足をほどきながら着いていく。
「打ち合わせ長引いてもうて。」
「ひな、仕事し過ぎや。」
「しゃあないやんけ。断るんも申し訳ないし。」
葉がすっかり落ちたいちょう並木の道を少しの距離を置いて歩く。
その間を北風が足早に駆け抜けていく。
「あんま仕事し過ぎんなよ。」
「なんでそうなんねん。」
「……そうなるからや。」
「どう言うことやねん。」
乾いた微かな笑い声が零れる。
こうして落ち着いた時間を二人で過ごせる日が来るとは若い頃の自分にはわからなかっただろう。