あなたへ
第1章 あなたへ
「俺、覚えてんで。この道で二人でようバカやったん。……なんか、今は逆になってんな。」
「…逆?」
駅に着いた俺とひなはそのままベンチに座った。
「俺がよこに告った日、お前が東京に行って帰ってこやんような気がしててん。いつの間にか俺を置いて行ってまうんちゃうかって。」
ポケットの中の手を強く握り返しながら俺の目を見た。
「正直、今でも思う。いつか離れてそれっきりになるんちゃうかって。だから、お前が会えてないってゆうたとき、ほっとしてん。あぁ、よこは変わってない。やっと追い付けたって。」
普段あまり見ることのできない、柔らかな笑顔が俺を包み込む。
「…そろそろ東京行かなあかんから…。」
遠くから聞こえた電車の音にひなは俺の手を離した。
「…お前も東京来るんやろ。そんな顔すんなや。」
俺がどんな顔をしていたのか、俺には記憶がない。そのときのひなの笑顔があまりにも綺麗だったから。
切符を買っている間、あの時の記憶が鮮明に目の前に広がった。
少し幼いひなが目の前で泣いている。
俺はほほに口づけた後、少しだけ抱き締めた。
その暖かさが、まだ手に残るぬくもりと重なる。
「…ほな、行くわな。」
無人の駅にか細いアナウンスが流れる。
「…あ。よこ、忘れもん。ちょっと。」
改札口の手前で手招きをしたひなにそっと近づく。
ふわりと、柔らかい唇が俺のほほに当たる。
そして少しだけ抱き締めた。
電車の扉が開くとひなは手を降りながら走って電車に乗り込んでいく。
俺は暖かな手をひなに降った。
「……ほんまに…逆や。」
電車がゆっくりと発車していくのを眺めながらポツリと呟いた。
粉雪が降る。
積もらないように、そっと降り続く。
「…来年も雪、降るかな。」
誰もいない駅で、俺の言葉が白く、過去へと消えていった。
「…逆?」
駅に着いた俺とひなはそのままベンチに座った。
「俺がよこに告った日、お前が東京に行って帰ってこやんような気がしててん。いつの間にか俺を置いて行ってまうんちゃうかって。」
ポケットの中の手を強く握り返しながら俺の目を見た。
「正直、今でも思う。いつか離れてそれっきりになるんちゃうかって。だから、お前が会えてないってゆうたとき、ほっとしてん。あぁ、よこは変わってない。やっと追い付けたって。」
普段あまり見ることのできない、柔らかな笑顔が俺を包み込む。
「…そろそろ東京行かなあかんから…。」
遠くから聞こえた電車の音にひなは俺の手を離した。
「…お前も東京来るんやろ。そんな顔すんなや。」
俺がどんな顔をしていたのか、俺には記憶がない。そのときのひなの笑顔があまりにも綺麗だったから。
切符を買っている間、あの時の記憶が鮮明に目の前に広がった。
少し幼いひなが目の前で泣いている。
俺はほほに口づけた後、少しだけ抱き締めた。
その暖かさが、まだ手に残るぬくもりと重なる。
「…ほな、行くわな。」
無人の駅にか細いアナウンスが流れる。
「…あ。よこ、忘れもん。ちょっと。」
改札口の手前で手招きをしたひなにそっと近づく。
ふわりと、柔らかい唇が俺のほほに当たる。
そして少しだけ抱き締めた。
電車の扉が開くとひなは手を降りながら走って電車に乗り込んでいく。
俺は暖かな手をひなに降った。
「……ほんまに…逆や。」
電車がゆっくりと発車していくのを眺めながらポツリと呟いた。
粉雪が降る。
積もらないように、そっと降り続く。
「…来年も雪、降るかな。」
誰もいない駅で、俺の言葉が白く、過去へと消えていった。