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あなたへ

第1章 あなたへ

「…帰るか。」

「…飯は?」

「…ここらへん他なんもないやん。…しゃあないから、東京帰ってから食べるわ。」

あっさりと歩きだした俺より少し小さな背中を見たとき、あの時より少し大きくなったような気がした。

これが普段のひなの背中なんだろうけど、それが無性に不安を誘った。

「……ひな。」

「…なに?」

「東京に帰るなんて…言わんといてくれ。」

「……は?」

俺は意識的にひなとの距離を詰めた。

「まるで東京が故郷みたいに言わんといてくれ。…俺らの故郷は大阪やから。」

「そんな深い意味でゆうたんちゃうやん。」

俺の真剣な顔に小さく笑う。

ひなが離れていく。

こんなに近くに来たのに。

俺はひなが手を入れるポケットに手を忍び込ませた。

「つめたっ!?何すんねん!?」

「ええやん。寒いんやから。」

「俺も寒いわ!!自分のポケットに入れろや!!」

「ポケット、ないねん。」

「嘘つけ!!」

ポケットのなかで暴れるひなの手を無理やりぎゅっと握った。

暖かなひなの手。

あの時駅で唇を当てたほほは冷たくて、少ししょっぱかったっけ。

「…東京に帰るって言われたら、なんかここの思い出が、いつか消えてまう気がすんねん。だから…帰るって言わんといて。」

「……あ。雪。」

いつのまにか下を向いてた俺はひなの言葉で空を見上げた。

ようやく目に見えるぐらいの小さな粉雪が一粒、また一粒と舞い降りる。

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