春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第11章 どうしようもなく、惹かれる心
「帰る途中で、薬局寄ろうな」
「………!」
遼くんはポケットからハンカチを取り出すと
広げたそれを三つ折りにして
私の擦れた右手を持ち上げて、きゅっと結んだ。
……もう、心臓が壊れたように鼓動を続けている。
「……春菜」
応急処置をしてくれた右手に、遼くんの左手が重なる。
胸がいっぱいで、苦しくて
遼くんを見上げると……
「ありがとう」
「………!」
「俺の作品を守ろうとしてくれた、お前の気持ちが嬉しかった」
その顔に、夕陽が反射して
私よりも、苦しくて、切ない表情をしている……遼くんの瞳が揺れていた。
「……それなのに
こんなことしかしてやれなくて、ごめんな」
巻いてくれたハンカチを、もう一度結び直して
遼くんはゆっくりと手を離した。
その薬指にも、光があたって
永遠の証である指輪が、光っていた。