春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第15章 少しだけ
祝日の今日は、当然ながら学生達もいない。
研究室の扉を閉めて、鍵をかけて振り返っても
長い廊下はシンと静まり返っている。
“ 春ちゃん、み~っけ♪ ”
「……ユキ……」
そっと呟いた彼の名前も、乾いた空気に消えていく。
ポケットに手を入れて、ふわふわの明るい髪を光らせて
来ちゃダメって言ってるのに、太陽みたいな笑顔で待っているユキ。
……出逢ってから、1ヶ月。
それなのに、こんなにもユキの存在が心に溢れている。
4日前の土曜日、お姉さんの元へ連れてってくれたあの日。
また来週ねって、ユキは笑って私を駅まで送ってくれたけど
……明日が、大学でユキと逢う最後の日。
自分が決めたことなのに、心臓がぎゅっと締めつけられて、苦しくて
深く深呼吸してから、私は研究室を後にした。