春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第15章 少しだけ
「あの時は、嫁の手前だったから
咄嗟にトボケたんだけど」
向かい合う私から、体を横に向けて
ポケットから煙草とライターを取り出しながら、遼くんは続ける。
「雪斗がここの空デを専攻してることは知ってたし
……もしかしたら、春菜とも顔を合わせてんじゃねぇかって思ってた」
「………!」
「だから何度も聞いてたのに、お前はいねぇの一点張りだから。
まぁ学生自体何百人っているから、無理もねぇけど」
“ 将来有望のいい男、1人くらい捕まえたんだろ? ”
4月1日、会社のミーティングルームで、遼くんに聞かれた言葉を思い出す。
あの時は、まだユキと出逢ったばかりで
私の心は、100%揺るぎなく遼くんに向けられていた。
「……ユキの存在は、噂で聞いてただけで……
1ヶ月前に、初めてちゃんと話したの」
「………」
「それまでは、ユキがどんな人なのか……
遼くんのことも、もちろん知らなかった」
沈みかけの夕陽が照らす、その横顔を見つめて
静かにそう告げると、遼くんは煙を空に浮かべた。