春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第6章 先輩と後輩
“ いいよ、返事は急がない ”
………おとといの水曜日
“ みんなのユキくん ” は、笑顔でそう言うと
何も言えずに立ち尽くす私の頬に、優しい口づけをして
爽やかな香りを残して、図書室を後にした。
姉さんから携帯に呼び出しがかかってくるまで、暫く放心したまま本当に動けなくて
ギリギリで5限の講義に間に合ったはいいものの、ほとんど上の空だったのは言うまでもない。
“ もう一度言うけど、本気だからね ”
「…………っ」
………ダメだ。
思い出すだけで、触れられた場所が疼いてくる。
あの甘い声が耳に纏わりついて離れなくて、人数分の印刷を終わったのに動けない。
週末のラストスパートで慌ただしい社内。
私1人だけが、まるで別世界にいるような感覚に陥っていた。