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一人の楽屋

第1章 一人の楽屋

「お疲れ様です!!」

番組の収録終わり。全員の明るい声がこだまする。

「横山くんの最後の決め台詞、めっちゃ笑ったわ。」

「何で笑うねん!?」

「てか、マルって俺のこと好きやったん?」

「え?…えっと…まぁ。ええやんか。だってヤス、かっこいいし優しいし…。」

「正直もんやな。別にあの場で言わんでも…。」

「亮、お前引いてないか?」

「……引いてないよ。」

「引いてますやん!!えぇ~もう~。」

「そらしゃあないわ。」

いつもの何気ない会話。何一つ変わったことはなく楽屋に入った。

僕らも最近では楽屋を一人一人用意してもらえるようになった。

大部屋ひとつを七人でひしめき合ってたあの頃もそれはそれで楽しかったが、こうして一人で疲れを癒せる空間をもらえるのもありがたい話だ。

しかしさっきまで騒がしかったのが急に静かになると僕は強く寂しく思う。

もしかしたら僕には逆にこの空間は疲れてしまう場所かもしれない。

ため息をついてしまえば動けなくなると思った僕は空元気でも出すために着替えを手早く終わらせて筋トレをすることにした。

ただ鍛えるだけではなく、意識的に大きな声を出しながら。

鏡の前で鍛える僕の姿はやはり少し酔いしれるものがある。

自分の美しい理想の体になるために、自分は今、努力をしているんだと思うと自分で自分を高く評価してしまいたくなる。

それがきっと男というものなんだ。

筋肉もほどよく熱くなり、うっすらと腕を光らせる芸術のような汗をぬぐい、僕はゆっくりと立ち上がった。

少しやっただけではそんな代わりはないだろうが、鏡の前でのボディーチェックは至福の時間だったりする。

いつもの僕の体に満足していると、ふとあることに気づいた。

確かこの部屋は僕一人やったはず…。

僕の後ろにそっと立つ人影が鏡に写っている…。

気のせい?いや、気のせいにしてははっきりしすぎている…。

「……だ、誰?」

たまに見えてはいけないものを見てしまう僕は一気に血の気が引いた。

生唾を飲み込み、ゆっくりと後ろを振り返った。

そこには白の服を見にまとった鬼のような男が僕を睨んでいる。

その男は僕と目を合わせるなり不気味に微笑んだ。

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