一人の楽屋
第1章 一人の楽屋
「それは…章ちゃんやったら言っても許してくれるかなぁって…。」
「…章ちゃん…?」
「…ん?」
組まれていた腕がゆっくりとほどかれ、ふわりと浮き上がるように信ちゃんは立ち上がった。
「お前…いつもヤスって呼んでたよな?」
「両方使うよ?何となくで。」
「…ヤスに気、許してるからちゃうん?」
「…信ちゃんって…そんな嫉妬心強かったっけ…?」
僕から少し遠い彼の心臓に伝わるように言葉を繋げた。
「僕にも…事情があんねんけど…。わかって…くれへん?僕、信ちゃんのこと、好きなんは変わらんから。」
「……別に、ヤスにやったらとられてもしゃあないと思うけど…。」
「信ちゃん!!どうしたんよ!!」
台詞を捨てて出ていこうとする信ちゃんを我を忘れてつかんだ。
次の瞬間には視界は信ちゃんで満たされた。
「…え?……えっ?」
後ろに逃げようにも背中に冷たいものを感じて動けない。
横に逃げようにも両腕が顔のすぐ横にあって動けそうにもない。
「……俺もお前が好きや。だから…だからこそ…あんなこと言われたら…いてもたってもいれんくなんねん。俺の気持ちも…わかってくれや。」
「…信ちゃん…。」
足先に冷たいものを感じたとき、僕の手はそっと震える体を抱き締めていた。
「大丈夫…。わかる。わかるから…。ごめんな…。」
目を閉じて、すっと息を吐くとゆっくりと僕の背中に大きな手が覆い被さった。
その温もりは少しずつ消えていき、最後には抱き締めていた感覚さえも消えていった。
「……やっぱり…。」
ゆっくりと目を開けると鏡に立つ僕一人の姿が映っていた。
静かな楽屋。
残ったのはそれだけだった。
だけど不思議と寂しくなかった。
やっと“この”信ちゃんに出会えたんだと思うと、むしろ嬉しかった。
「あれ?…もしかして、壁ドンされてた!?」
あわてて後ろを見ればガッチリとそびえ立つ壁にさらに興奮を覚え、いてもたってもいれなくなり、楽屋を飛び出した。
ちゃんとお詫びをしなくちゃ。
生き霊じゃなくて、信ちゃん本人に。
「…章ちゃん…?」
「…ん?」
組まれていた腕がゆっくりとほどかれ、ふわりと浮き上がるように信ちゃんは立ち上がった。
「お前…いつもヤスって呼んでたよな?」
「両方使うよ?何となくで。」
「…ヤスに気、許してるからちゃうん?」
「…信ちゃんって…そんな嫉妬心強かったっけ…?」
僕から少し遠い彼の心臓に伝わるように言葉を繋げた。
「僕にも…事情があんねんけど…。わかって…くれへん?僕、信ちゃんのこと、好きなんは変わらんから。」
「……別に、ヤスにやったらとられてもしゃあないと思うけど…。」
「信ちゃん!!どうしたんよ!!」
台詞を捨てて出ていこうとする信ちゃんを我を忘れてつかんだ。
次の瞬間には視界は信ちゃんで満たされた。
「…え?……えっ?」
後ろに逃げようにも背中に冷たいものを感じて動けない。
横に逃げようにも両腕が顔のすぐ横にあって動けそうにもない。
「……俺もお前が好きや。だから…だからこそ…あんなこと言われたら…いてもたってもいれんくなんねん。俺の気持ちも…わかってくれや。」
「…信ちゃん…。」
足先に冷たいものを感じたとき、僕の手はそっと震える体を抱き締めていた。
「大丈夫…。わかる。わかるから…。ごめんな…。」
目を閉じて、すっと息を吐くとゆっくりと僕の背中に大きな手が覆い被さった。
その温もりは少しずつ消えていき、最後には抱き締めていた感覚さえも消えていった。
「……やっぱり…。」
ゆっくりと目を開けると鏡に立つ僕一人の姿が映っていた。
静かな楽屋。
残ったのはそれだけだった。
だけど不思議と寂しくなかった。
やっと“この”信ちゃんに出会えたんだと思うと、むしろ嬉しかった。
「あれ?…もしかして、壁ドンされてた!?」
あわてて後ろを見ればガッチリとそびえ立つ壁にさらに興奮を覚え、いてもたってもいれなくなり、楽屋を飛び出した。
ちゃんとお詫びをしなくちゃ。
生き霊じゃなくて、信ちゃん本人に。