一人の楽屋
第1章 一人の楽屋
「でたぁああ!!」
「うっさいんじゃボケ!!」
空間を切り裂くがごとく右手が僕の頭を直撃した。
「え?信ちゃん何でおるん?どうやって入ってきたん?」
「なんで気づかんねん!!自分に酔いすぎや!!」
真顔で突っ込まれたあと、顔をしわっとさせて笑った。
なんだかこの笑顔には僕の生きている意味さえも感じるものがある。
我が物顔で床に座り、僕が持ってきたチョコレートを普通に食べる。
「で、どうしたん?」
「お前な、うるさいねん。筋トレするんやったら静かにしてくれへんか?」
普通にくつろぐ姿はまるで家のリビング。
カメラの前では見せない、もしかしたら僕にしか見せないリラックスとした様子に僕もおも思わず笑顔が落ちる。
「ごめんって。信ちゃん。…だって一人で寂しかってん。」
すっと脇に腕を通して体を寄せる。
やっと温もりを感じられた安心感に目を閉じた。
この時間が一番好き。
自分の姿を鏡で見るよりさらに燃え上がる瞬間だった。
「…まるさ…。ヤスのこと…好きやってんな。」
「…へ?…まぁ。好きですけど…信ちゃんの方が好きですよ?」
「…ふーん。」
僕と目をあわさない信ちゃんの顔を覗きこんだ。
綺麗な瞳が少しだけ光った。
「…信ちゃん…もしかして、僕が浮気してるって思ってます?」
「……どうやろな。」
曖昧な返事に信ちゃんらしさは感じられなかった。
「不安にならんでも、僕は信ちゃんの…」
「んならなんであんときヤスの名前が出てきてん…。」
「それは…。」