言葉で聞かせて
第7章 過去
『最初は所謂普通の男女のお付き合いのようでした。毎日彼女が作ってきてくれたお弁当を一緒に食べて、毎日一緒に帰りました。』
なんだか始まりは明らかに可笑しいけれど、その光景は千秋さんの言う通り普通の男女だったのだろう
『僕を脅してきた彼女と僕に優しくする彼女。そのギャップに最初は戸惑っていたのですが段々写真のことも忘れ、ただ普通に付き合いを続けていました』
千秋さんはその女性に少し好意を抱いていたのだろうか
敦史を振り返ってみると、敦史も険しい顔をしてメモ帳を読んでいた
「敦史?」
「あ?」
「座る?」
立ったままソファの背もたれに手を置いていた敦史の手はいつの間にかソファを筋が浮き出るほどに強く掴んでいる
「隣に座りなよ」
僕が少し横にズレて隣を軽く叩くと僕が気を遣ったのに気づいたのか「あぁ」と小さく答えて僕の隣に座った
『彼女の様子が変わったのは僕が完全に写真のことを忘れ去り、彼女に対して好意を抱き始めた頃でした。それまで一緒にご飯を食べに行った時には会計をしてくれたりと景気の良いことが多かったのが、僕にお金を払って欲しいと頼むことが増えました』