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言葉で聞かせて

第10章 再来


指定された駅の、指定された出口にすごい吐き気と戦いながら向かう

到着して辺りを見渡すけれど、それらしい影はない

しばらくキョロキョロしながら邪魔にならないように柱の側で待っていると、後ろから来たハイヒールの歩くコツコツとした足音が僕の真後ろで止まった


「久しぶり。ちーちゃん」
「!!」


背筋がゾッとした

僕のこと「ちーちゃん」なんて呼んだのはたった1人

僕はゆっくりと振り返った


「お久しぶりです。真菜(マナ)さん……」


にこっと微笑んだ彼女、柏木真菜は悪意なんて欠片も感じられない可愛らしい女性のする笑みを浮かべている


「うん。久しぶり」
「……」


彼女は笑みを崩すことなく、僕の腕に自分の腕を絡めた


「行こっか?」
「どこに……行くんですか……?」


僕の質問に真菜さんは笑みを深めて答える


「ひーみーつっ」


鼻歌でも歌いだしそうなほどに上機嫌な彼女は僕の腕をぐいぐい引いて歩いていく


他の人から見たらきっと、普通の恋人に見えるんだろうな

誰も、助けてなんてくれないよ


僕は表情に怯えを出さないようにするのが精一杯の状態で真菜さんに導かれるまま歩いた

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