
言葉で聞かせて
第11章 記憶
「あれ?……こんな早くに……」
どこいったんだろう?
そう思っていると敦史が目を擦りながらリビングに入ってきた
「あ?朝飯ねぇの?」
「なんか、千秋さんもいないみたい……」
「は?今何時だと思ってんだよ」
「だよね、おかしいよね」
僕は覗いただけで入っていなかった台所に敦史が入ると
「悠史、これ……」
カウンターの上に置いてあったらしい紙を差し出してきた
『用事を思い出したので朝ご飯作れません。ごめんなさい』
紙にはそう書いてあった
けど、どこか変
あ、字が……
いつもより随分雑だ
どこか、急いでいるような?
僕が眺めていると敦史が僕に「なぁ」と声をかけてきた
「何?」
「あいつは記憶がないのに思い出すような用事なんてあんのか?」
「え、あ……っ」
それもそうだ
それじゃあどうして用事なんて……
僕たちには知らせられない何かがあったのかな
「あいつ、記憶戻ったのか……?」
「え、でも……そしたらどうして僕たちの側にいないの?千秋さんを困らせていたものはもうないはずでしょう?」
「……」
千秋さんの悩みの元凶は敦史がその拳で無くしたはず
「……わかんねぇ……」
