テキストサイズ

暗闇で恋しましょう

第13章 情けない

そして、全員が、“俺が会社を出る理由”で1番しっくりきた回答に辿り着いたそうで。



“副社長には、大切な人がいる”



そんな噂が風に乗って俺の耳に入った。


あながち間違ってはいないし、本当の理由を言える筈もないで俺も訂正はせず。


噂は噂でしかないから、そんなに浸透はしなかったものの、見ていた奴らにとって、俺のその行動は真実味を持たすに充分だったらしい。


そういうことなら、聞くのも、行くのを妨げるのも野暮だ、と全員一致で決まったとか、なんとか。


俺には有り難すぎる取り決め。


危惧していた“時間の無駄”は省かれるし、何より……


この会社のトップ、代表取締役




俺のーーーー父




あの人に


“俺に大切な人がいる”


それを知られないでいられる。


あの噂があの人の耳まで届かなかったのが、本当に不幸中の幸いだった。



「お気を付けて」

「あぁ。行ってくる」



父さん。


どうか、気付かないで。


あの時の痛みを思い出しながら、俺は“大切な人”の元へと急いだのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ