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暗闇で恋しましょう

第10章 お買い物3

刹那、耳に入ってきたのは喧騒。


ハッとし、前を見ればあいつの姿はもう居なくて。



「…………はは……」



漏れる乾いた笑い。


前髪をくしゃりとし、一息。


……まさか、杏の声で我に返るとは。



だって、あの杏だぞ?



いつもなにやら騒がしくて。


羞恥をどこぞに置いて来た、あの。


あいつの声で我に返ったなんぞ、酷く、解せない。


そもそも、さっきの状態に陥れたのは杏だ。


俺の脳みそは一体、何をどう勘違いして、杏の声を思い起こしたのか。


しかし、俺がどう思おうが、杏の声に救われたのは事実。


悔しいが認めなければ。


手の震えは情けないことに止まっていないけど、確実に意識はさっきよりはっきりとしている。


はっきりしたことによって、先程推測したことの危険性が嫌ほど目に見えてくる。



“杏が大人になってきたことで、あいつと重なった”



これが、正しいとしてみろ。


俺の記憶と、杏の言動がリンクする度、毎度こんな状態に陥ってたら………


俺の体力も精神も幾らあっても足りん。


その上、杏には悟られないようにしないといけない。


にも関わらず、だ。

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