エスキス アムール
第11章 デート
私は、家には帰らず
お店に向かった。
「おぉ、はるか!遅刻だぞ…
ってはるか?はるか!」
お店には、
髪の毛が赤くなったシュウが
受付にいた。
涙で顔がグチャグチャになった
私を見て、驚いた顔をする。
「何があったんだよ?!」
「なんでもない!お客とって!」
拭いながら、部屋に入る。
私は、
お店に置きっぱなしにしている
スケッチブックを取り出した。
そこには、一枚、
大野さんの絵が描れている。
人物画のデッサンは
好きな人しか描けない。
そこのスケッチブックに
描かれていることは、
私が大野さんのことが
好きだという象徴だった。
泣きながら、
新しいページをめくって
鉛筆をすべらせた。
今日の瞳に焼き付けた彼を
ひたすら描く。
笑顔、
哀しい顔、
戸惑った顔、
全てを描き尽くした。
楽しみだったデート。
それは、
思わぬ形で現実を突きつけられるものになった。
勘違いしそうになっていた。
もしかしたら、
大野さんも
好きだと言ってくれる日が来るんじゃないかって。
だけど、それは違う。
大野さんは、
優しさでここに通ってる。
そして、
たまたまチケットがあるから
私を誘ったんだ。
冷静になれ。
深入りするな。
シュウだって言ってたのに。
私はバカだ。
こんなに浮かれて、本当にバカだ。
何時間たっただろう。
描き終わって
そうして、こぼれる涙。
自分が描いた彼をなぞりながら、
呆れるほど泣いた。