エスキス アムール
第16章 バーボンと、ストーカー
少し早い雪が降った
あの日から
もう、一ヶ月が
過ぎようとしていた。
年末に近づいている
ということもあって、
残業が続く忙しい日々。
だけど、それが
色々なことを
忘れさせてくれる気がして、
必要以上に残業をした。
せっかく忘れられると
仕事に集中していたのに
あの社長。
仕事中に風俗の話するか?
普通。
あれから、
「もういいんだ」と
言い張る俺に、
要はもう、
はるかちゃんのことを
聞いてくるのをやめた。
『話したくなったら、
いつでも聞くから。』
そう言った彼の言葉は、
本当に温かかった。
だけど、話したら
バカみたいに
泣いてしまいそうで、
それも嫌だった。
残業といっても、
もう今日はすることが無い。
久しぶりに早く帰れる夜だった。
「波留。
今日、飲んで帰らない?」
「あー、悪い。
ちょっと、今日は帰るわ」
「…そか。気を付けて帰れよ。」
要が気を遣ってくれていることはわかっていた。
今まで、
彼女と別れてもこんな風にはならなかったから
彼も初めてのことで、
戸惑っているのだろう。
今日は彼女のことも
思い出してしまうし、
散々な日だった。
こんな日はヤケ酒してやろう。
バーに入って、
注文をして、
一気にそれを飲みほした。