エスキス アムール
第24章 逃亡日記
「俺はこの通り
ピンピンしてるよ。
何にも堪えてない。」
顔の前で
手をちらつかせて見せたけど、
木更津は、それをじっと見つめただけだった。
湿っぽくなるのも嫌で、
冷蔵庫の前にいって、
飲み物を探す。
「なにか飲む?」
「ビール」
「…昼間だぞ。仕事は?」
「ない。」
嘘つけ。
天下の木更津製薬の社長だろ?
暇なわけないだろう。
彼が嘘をついて、
昼休みに抜け出して
ここに来てくれたことくらい
容易に想像できた。
あの秘書は怒らないだろうか。
「…波留くん抜けてから、
会社、大変になったね」
「まあ、
社長が逮捕されるだろうしな。
信用はガタ落ちだよ。」
「…戻る気はないの?」
「…戻るも何も、
俺は解雇された身だからね。
無理無理。」
だけど、
これから社長が逮捕されれば
引っ張って行くのは、
あの副社長見習いをしていた
右も左も分からない
社長の息子だろう。
あいつのことを考えると
それがどうにも可哀想で
連絡を取りたくなったが、
それはやめた。