エスキス アムール
第3章 めぐり合わせ
「観月様、
受付を通していただかないと
困ります…っ
お店のルールですから」
この人に
ルールの事をいったって
通用するはずのない事は充分に分かっていた。
だけど、力でも勝てない。
ならば、
言葉を並べるしかないのだ。
いっそのこと、
股間を蹴り上げてやろうか。
受付も通さないで
トイレでだなんて、
100万以上貰わないとやってられない。
もうここは我慢をして
後でふんだくろうか。
それとも、脅してやろうか。
いくらでも手はある。
こんな事には慣れていて、
このうえないくらい冷静だった。
どうしようか。
抵抗しながら迷っていた時、
「社長?観月社長?」
大野さんの声が聞こえた。
咄嗟に私から離れる変態社長。
「どうした?」
何事もなかったように返事をすると、
大野さんが扉から顔を出した。
「大丈夫ですか?
北山社長が、
あんまりにも長いので、
もしかしたら具合が悪いのではと
心配なさっています。」
「あ、いや。
彼女と話し込んでしまってね。
今いくよ。」
よく言うよ!
話す余地も与えなかったのは
どこのどいつだ。
こんな意見も聞かないで
社長が務まるのか!
多分私はこの時、
全世界の人の中で一番呆れた顔をしていたと思う。