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エスキス アムール

第34章 彼の選択





「おまたせ。」

「ん。会社の話?」

「まあ、そんなところ。」

「……」



たくあんパフェは少しだけ残っていたが、もう帰ろうと木更津に言った。

なんとなく、
外にいる気分ではなくなってしまった。
彼女の影が頭をちらつく。

このまま考えていても、
木更津にも申し訳ない気もして。



家に帰り風呂に入ってベッドに入るまで、俺たちは終始無言だった。
木更津は故意なのか、喋ることがないのかそれが心地好い無言なのか、そのときの俺にはわからなかった。


しばらく寝転がっていると
木更津が身体に手を回して俺を見つめ
静かに唇を落とした。


そのキスはだんだん深くなって
こちらからも舌を絡める。
優しい快感が突き抜ける。

身体に回る手は、木更津にしては珍しく
乱暴に身体を這った。

それでも彼が与えるものは
すべて気持ちよく感じる。


もっと、もっと。

求めようとしたとき




『彼女は脅されていたんです!』

秘書の言葉が蘇ってきた。
そして、彼女の書いた手紙が浮かぶ。
思わず唇を離した。


ダメだ。
こんな気持ちで抱かれるなんて。
木更津を傷つける。



「ごめん、眠いんだ
寝るね。おやすみ」



初めて彼を拒否して眠った。
彼の手が名残惜しそうにゆっくりと
俺から離れる。

抱き締めてほしい。
そう思ったけど、拒否した手前、
そんなことを言えなかった。


このとき、拒否なんかしなきゃよかった。
秘書のことも何もかも忘れて
彼だけを見ていればよかった。

それなのに。
俺は拒否をして眠ってしまった。

彼が、別れの準備を
進めているとも知らずに…。

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