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エスキス アムール

第34章 彼の選択

【波留side】





「いらっしゃいませ」


俺は本当に久しぶりにジゴレットに来ていた。
久しぶりで懐かしさすら覚える。



「あ、オーノさんじゃん!久しぶり!」

「久しぶり」


彼は相変わらずの
赤髪で、何も変わってはいなかった。
お調子者なところも変わらない。
その様子になんだか酷くホッとした。



「なに?
はるかと喧嘩でもした?」

「いや…」


ここにはるかちゃんはいない。
だけど、彼女は
シュウくんとは仲がよかったから、
何か知っているのではないかと思ってここに来たのだ。


ここ最近、彼女のことを探している。
あの秘書と話した日から、
やはりきちんと話して謝ろうと決めたから。

彼は俺の姿をみて喧嘩でもしたのかと茶化したが、
そう聞いてくるということは、
今回のことを何も知らないということだ。

彼はきっと新聞もテレビも見ない。
ここで、何処かの会社の不正がどうとか、そんな話が出るとも思えない。
彼女から聞かなければ、彼はなにも知らないことはおかしくなかった。



「まさか、この店に
ヤりに来たわけじゃないよね?」


当たり前だと慌てる俺に、
彼はからかうように笑った。


「ちょっといいかな。」

何も収穫はなさそうだが
とりあえず聞いてみるだけ。

一連の状況を彼に話すと
彼は、本当に驚いて耳を傾けていた。


「てことは、今、はるか
何処にいるかわかんないんだ?」

「うん」

「いや、俺も今の話すら知らないからな。
携帯は?」

「つながらない。」

「そういえばこの仕事始めたとき、
金貯めてニューヨークに絵の勉強に行くっていってた。」

「ニューヨーク?」


奇遇にも行き先が同じ。
日本にいないのなら、
見つかるはずもないなと苦笑する。


それでも、今回のことはとてもいい収穫だった。
彼女が絵の勉強をニューヨークでしたいと思っていたことは全くの初耳だった。

言い出したくても、
言い出せなかったのかもしれない。
彼女といたいと思ってした行動が、
結局、彼女を無理矢理縛り付けていたのかもしれないと今になって思った。








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