エスキス アムール
第34章 彼の選択
時間を見たら、もう夜遅かった。
最近は休日になると、
こうして彼女を探しに出掛ける俺を
木更津が夜遅くまでご飯を食べずに待っている。
遅くなるからと連絡しても、
待っていてくれている。
今日もまたせてしまっているだろうなと足早に帰ると木更津は思っていた通り、
夕飯を食べることなく待っていた。
「ただいま」
「おかえり。
遅かったね。どこに行ってたの?」
「ごめん。ちょっとね」
「………」
別に隠すつもりはなかった。
彼女とあんな中途半端な別れ方をしたのが嫌だったし、俺のせいで嫌な思いをさせてしまったことを謝りたかった。
彼女はもう、俺に気持ちなんて
持っていないだろうし
なにもやましいことではないと思い込んでいた。
木更津が嫉妬をするなんて思えなかったし
態々説明するまでもないかなと思ってしまったのだ。
俺は彼女のことを確かに忘れたわけじゃない。
今でもあの手紙を忘れることは出来ない。
けれど、木更津のことが好きなのは事実で。
彼のことを大切に思っている。
だけど、思っているだけで。
俺が何も言わないたびに
彼が傷ついていることにまるで気が付かなかった。