エスキス アムール
第34章 彼の選択
出ていくのだとわかって、
慌てて玄関まで追いかける。
彼を呼び止めると、
ゆっくり彼は俺を振り向いて睨みつけた。
「…さあ。どこだろう。」
「こんな時間に
行く宛てはあるのかよ?」
「…波留くんと違うから」
木更津がこんな嫌味をいうのも初めてだ。
木更津は俺と目を合わせようとしない。
それがどうしようもなく不安にさせる。
「靴を脱げ。話し聞くから。」
どうしてだか、
このまま彼を外に出せば木更津は帰ってこない気がした。思わず彼の腕を握る。
それに木更津はびくりと肩を震わせた。
「や、やめ…て…っ」
壁にそのまま押さえつけると、
怒りを含んでいた彼の顔は、
みるみるうちに青褪めた。
なんだその反応は。
他に男でもいるのかよ。
無償に腹が立った。
「なんだよその顔。
俺としたくないのかよ!?
…お前、他に男でもできたの?」
「そんなわけ…っん!!」
抵抗する木更津を押さえつけて
何かをもらそうとしたその唇に
自分の唇を合わせて舌をねじ込む。
彼の反応がどうしようもなく不安になった。
キスをしようとして
こんなに青褪められたら、疑うしかない。
俺に気持ちがなくなったんじゃないかと。
この家を出て誰の元へ行くつもりだ。
どうしようもない嫉妬が湧き出てくる。
だけど、その嫉妬も
あることに気がついてすぐに落ち着いた。
そうだ。
木更津を拒否をしてから
一度もキスすら交わしていない。
彼が求めてこない。
この間までそのことに敏感だったのに
まるで気がつかなかった。
もっと早くに気がつくべきだった。
仕事が忙しかったからじゃない。
気がつくポイントはたくさんあったのだ。
彼が俺に手を回していないことも
朝のキスをしようとしないことも。
日常に異変はありふれていたのに。
彼女を探すことに夢中になりすぎて、
彼のことをきちんと見れていなかった。
きっと彼は、それを敏感に感じ取っている。
誰かへ気持ちが行っていると思い込んでる。
彼をこんな状態にさせたのは、
きっと、この俺だ。
彼は唇を合わせながら、
目を瞑ることはしなかった。
何かを見定めるように俺を見つめている。
その瞳を必死に見つめ返した。
好きだ。
そう、心の中で叫びながら。