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エスキス アムール

第34章 彼の選択

【木更津side】



目を開けると
部屋はもう明るかった。
いつ眠ったのかなんて、わからない。

時計をみると、あと一時間くらいで出勤の時間だ。
肩は異常に寒かったけど、
首から下は異様なほど温かい。

あまり昨日の事が直ぐには思い出せなかったが、
布団をめくって、僕の身体にまとわりついて眠る波留くんを見て、一気に昨日の出来事がフラッシュバックした。


そうだ。
あれからキスをしたまま、どちらからともなく服を脱がせ合い、ベッドに雪崩れ込んだ。
お酒の勢いもあって、ひどいことを言ってしまった僕を、彼はなにも言わずに受け入れた。


その行為の酷さを、彼の身体が物語っている。


無数に散らばる赤。
彼の手首は真っ赤な手形がついていた。
彼は痛い言わず、好きだ好きだ、
そう繰り返したけど。

彼女のことを思い浮かべているのではないかと思うと聞いていられず、手で口を塞いだ。
彼は苦しそうにしながら必死に応えようとした。

僕はなんてことをしているんだろうと思っても、止められなくて。
彼が悲鳴をあげても腰を打ち続け、
気がついたら二人とも気を失っていた。


彼の赤くなった手首を撫でる。
無数の引っ掻き傷にもキスを落とした。

ごめんね。
波留くん。


ごめん。



もう、いいから。
無理なんかしなくて。

僕に遠慮なんかする必要、ないんだから。


昨日彼にキスをされそうになったとき、
拒否されたあの光景が蘇った。
あの日からしていない。

このまま彼から抜け出せなくなる。
そう思うと怖かった。
彼の気持ちが彼女へ向かっているそのそばにいることほど、辛いことはない。
そこから抜け出せなくなるなんて嫌だったのだ。



そのせいで、波留くんをこんなに傷つけてしまう。
自分のこの手が、彼に傷を作った。
もう傷つけたくない。

彼を守りたい。
彼の身体も、心も。
彼を幸せにしたい。


僕は彼に触れていた手をそっと離して
気がつかれないようにベッドから抜け出した。



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