エスキス アムール
第36章 ファースト キッス
モニターをみると珍しいお客さんだ。
あれ以来、会っていない。
電話で少しだけ話したけど。
「社長、いないよ?」
「知っています。秘書ですから。」
「あ、そうだよね。」
珍しい客人を通して扉の前までくるのを待った。
何の用だろうか。
来る間に飲んでいたものを片付けて、紙を閉まって、ソファにかけてあった掛け布団を寝室に持っていった。
部屋は何時も片付けているから、ホコリひとつない。
彼女がくることに何も抵抗はないはずなのに、何か違和感を感じた。
コンコンと、ノックが響く。
その違和感はなんだろうと思いながらも、扉を開ける。
「こんばんは。
どうしたの?三嶋さん」
「こんばんは。
ちょっと、話したいことがあって。」
そう言って彼女はチラリと部屋の奥の方をみた。
いれてくれと言っているらしい。
どうぞと促すと、
彼女はさっと靴を脱いで部屋に入りソファに座った。
じゃあお茶でも……
とキッチンに向かったとき、違和感が何なのか気がついた。
そうだ。
彼女は俺と木更津が一緒にすんでいることはおろか、付き合っていることも知らない。
俺は平然と木更津の家で彼女を迎え入れたけど、それはあまりにも不自然なことだ。
俺が出たとき、彼女は何も思わなかったのだろうか。
あまりにも彼女が普通に対応したので、普通に部屋の中に迎え入れてしまった。
珈琲を用意しながら、呆然として頭を抱えた。