エスキス アムール
第36章 ファースト キッス
珈琲を持って、青褪めながら彼女の前に置く。
ありがとうと一言漏らす彼女の様子を伺った。
非常に落ち着いている。
恐ろしいくらいに。
「あの、あれだよ?
俺行くところないからさ。
木更津さんには家かして貰ってて…」
木更津がまさか俺たちのことを彼女にいうとも思わなくて、取り繕った。
彼が言い訳にするのもこんなことだろうなと想像しながら。
しかし彼女はそれを聞き、呆れたように俺を見て鼻で笑った。
そして、衝撃的なことをいう。
「嘘をつかなくて結構です。
貴方たちの関係は知っていますから。」
「あ、そうなんだ!
って、ぇえ?!!!」
俺の声だけが
部屋にわんわんと響いて、
彼女はその声に目を少しだけ細めると
出した珈琲を啜った。
「木更津から聞いたの?」
「いえ。」
「もしかして…興信所?」
「…。」
なんなんだよ!!
木更津製薬は、興信所使うのが伝統なのか?!
秘書も社長も、
所構わず使いやがって!
呆れた。
全部筒抜けって訳か。
すっかり油断していた。
木更津の興信所が手を引いたと思って。
まだ秘書の方が続いていたとは。
そんなことに金を使うのなら、
他に回した方がいいと思うのだけど。
「社長は、私に殺されると思ったんでしょうね。
一生懸命秘密にされてました。
だけど、貴方のことになると
わかりやすいから。」
呆れた顔で笑う。
赤くなったあいつの顔が頭に浮かんだ。
たしかにあいつは分かりやすい。
彼女の話に気分をよくしたが、
外でもあの顔を見せたのかと思うとムッとした。