エスキス アムール
第36章 ファースト キッス
「あの傘、壊れたでしょ?」
「うん、家につく直前に。
風で折れちゃった。ごめんね。」
「いいよ。もう、ガタがきてたから。」
「…ごめんなさい。」
「気にしないで。」
「傘だけじゃなくて…。
私、ひどい事して…。」
ずっと、謝りたかったと彼女は俯いた。
ずっとずっと好きで。
自分から外見も変えたくせに、気が付いてもらえない嫉妬でやってはいけない事をして、俺を傷つけたと。
「…ちゃんと、覚えててくれたのにね。」
彼女は哀しみを帯びた瞳でポツリと、呟いた。
その面影は、やはりあのリョウコちゃんそのものだった。
俺は傘を貸した時、
素朴なあのリョウコちゃんに確実に惹かれていた。
初恋と公言している施設のリョウコ先生を除けば、リョウコちゃんが、俺の初恋だったのだ。
だけど、あれから彼女に会うことはなくて。
学生証を見たのなら、
学校名を見ておくのだったととても後悔をした。
思い出の中にしまいこんだものの
あの彼女が忘れられなくて。
リョウコちゃんに雰囲気が似ている子に惹かれた。
それが、最初に付き合った歩だった。
歩も素朴で頬が赤くフワッと笑う。
みたとき、
あ、リョウコちゃんだ。
そう思った。
少なからず歩に振られるまで、リョウコちゃんが
心の何処かからずっと離れなかった。
そのリョウコちゃんが三嶋さんだったとは。
こんなに近くにいたとは、
思いもしなかった。