エスキス アムール
第37章 彼を想ふ
彼といた短い時間。
それは、私の人生において素晴らしいものだった。
幸せというのはこういう事なのだという事を、彼から教わった。
今でも彼が好きだ。
彼のことなら鮮明に思い出せる。
何も見なくたって、スケッチブックに描ける。
ニューヨークに来て、彼の絵を一枚だけ描いた。
だけど、涙が溢れて一枚しかかけなかった。
絵はそう簡単に売れるわけがない。
そう簡単にいい絵もかけない。
彼の側で描き続けることが私の幸せだったのか
今こうして、彼を傷つけ彼を突き放し、
自分の夢を優先して後悔しているのが私の幸せだったのか。
今となっては答えも出したくないものだった。
彼が私を憎む今、
私はここで自分の夢を叶え、描き続けるしかないのだ。
今日は少しだけ、彼の夢をみた。
楽しかったあの日々の夢。
起きたとき、私の顔は綻んでいて。
窓を開けて見上げると澄んだ空がずっと広がっていた。
何処までも澄んだ青は、限界がない。
見ていると吸い込まれて行くようだった。
その青空を見て、
いつの日か彼と美術館に初めてデートに行ったときのことを思い出した。