エスキス アムール
第38章 彼の想ひ
「あの人はいい人だよ」
「……」
知っている。
彼は、私が苦しくなるほどやさしく良い人だ。
「いつもはるかのこと大事にしてた。そうだろ?」
シュウは怒っていた。
口調こそ落ち着いているものの、その奥に彼の怒りが見えた。
「なんでオーノさんを信用しなかった?
なんで黙ってここに来た?
お前、自分でしたことわかってる?」
「…ごめんなさい…。」
「俺に誤ってどうするんだよ。
謝る相手が違うだろ」
「ごめんさい…っごめんなさい…ごめんなさい…っ」
自分の過ちは充分すぎるくらいわかっていた。
涙を流して謝ることしかしなくなった私に、シュウはため息をついた。
「オーノさん、お前に申し訳ないことしたって言ってたよ」
「え…?」
「はるかは自分のせいで苦しんだからって。」
どんだけいい人なんだよな。
そういってシュウ笑った。
泣きながら、少しずつあの時のことをシュウに話すと耳を傾けて最後まで聞いてくれた。
「もう一回会え。
オーノさんに。」
「私に会う資格なんて…。」
彼を傷つけた。
彼を捨てた。
そんなことをしておいて
会いたくなったと会いにいけるわけがない。
「そんなに泣くなら、
何で彼を信じなかったんだよ」
「…う…っうぅ…っ」
「謝りな?
ちゃんと、オーノさんに。
向こうが好きでも憎んでても、
悪いことをしたと思うなら謝らなきゃ。まずはね。」
そういって電話を私に差し出す。
シュウの優しい声に頷いた。
彼は私の言葉に耳を傾けてくれるだろうか。
電話をしても切られるのではないかと思ってそれが怖かった。
だけど、きっと、彼はもっと怖い思いをしたのだ。
日本で使っていたときの、
彼のくれたストラップのついたスマホを取り出して電話帳を開く。
それを見て、震える手で番号を押し、彼に電話をつないだ。