エスキス アムール
第38章 彼の想ひ
「僕はキミにあんなことして…!」
「いつ?どこで?」
そう言って、彼はまた僕の方に近づいてくる。
僕は、一歩また一歩と、
彼から離れるように後退りをする。
ドン
そうすればいつかは限界が来る。
壁。
逃げ道がない僕を見て彼は少しだけニヤリ、笑った。
いつか見た光景だ。
あの時は逆だったけど。
あれが僕と彼の始まりだった。
あのころは、彼とこんな関係になるとは思ってもみなかった。
「来るな。やめろ」
「俺がいつ傷ついたって?
どこも傷ついてない。」
「……っ」
「失恋の傷も、騒動の傷も、
お前が全部癒してくれたじゃんか。」
「…」
「傷付いてたのは俺じゃない。
傷付いてたのはお前だよ。木更津。」
彼は、顔を歪めて僕を見つめた。
「…ごめんな。」
「…なんで波留くんが謝るの?」
「気がついてやれなくてごめん。」
僕たちの距離はキスするぐらいまで近づいた。
僕の動きは彼の両手によってふさがれる。
大好きなその顔がすぐそばにある。
その状況にどうしようもなく俯いた。
「僕のことはいいから。
早く彼女のところにいきなよ」
「…なにいってるんだよ」
「彼女も待ってると思う。
波留くんのことが好きなんだから」
「…俺は…!」
「波留くんだって、彼女のこと、
すきでしょ?」
「……。」
「早くいってあげ……ヴッ!!」
鈍い痛みが背中を襲った。
そうして、痛みを感じて
初めていま、彼に
勢いよく
壁に押し付けられたのだと言うことがわかった。
彼はこれほどまで無いくらいに
怖い顔をして、鋭い視線でぼくを睨みつけている。
ガンッ!!
僕の顔のすぐ横に拳をぶち込むと、
「お前は、自分の幸せはどうでもいいのかよ!!」
ものすごい剣幕で、
僕に怒鳴った。