エスキス アムール
第38章 彼の想ひ
「お前は俺のこと、
何にもわかってない!
何にもわかってないじゃんか!!」
彼はさっきよりも顔を歪め、
僕に感情をぶつけた。
その瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
「………」
「木更津は、どうしたいんだよ。」
「……」
「俺といたくないの?」
「…」
あと数cm
いや、数mm。
あと少しで彼の唇に触れる。
彼の吐息が僕の顔にかかってくすぐたかった。
どうしようもなく、その唇に吸い付きたくなった。
どうしようもなく、彼をめちゃくちゃにしたい。
彼と気持ちが通じ合ってからも、彼女の影がちらついて、どうしても完全に楽しむことができなかった。
「俺のこと
好きだったんじゃないの?」
「……」
「なんとかいえよ。」
好きに決まってる。
一緒にいたいにきまってる。
だけど、それが
普通のことが普通にできないのが
この関係だ。
女の人には勝てないのだ。
彼女に負ける。
いつか、必ず
やはり女性が好きだと去っていくに決まってる。
それを想像したときの
哀しみは計り知れないのだ。
想像もしたくない。
女の人とだって、結婚がすべてじゃないけど、
少なくとも結婚という手段でしばりつけることはできるだろう。
だけど僕たちの関係は何にもしばりつけることができないのだ。
その不安は彼と一緒にいる限り付き纏ってくる。