エスキス アムール
第38章 彼の想ひ
「…帰ってくれ」
そう言うのが精一杯だった。
彼が彼女を探しているところを
見た瞬間、
やはり彼が一番必要としているのは彼女なのだと感じた。
いずれは僕が捨てられる運命にあるのだ。
彼は彼女を探していて
彼女も彼のことがきっと好きだろう。
彼を初めて抱いたとき
二回目に抱いたとき
三回目に抱いたとき。
全部鮮明に覚えている。
だけど、あれは、
全部きっと彼の心を埋めるためのものだったのだ。
僕は酷い人間で、彼の心が弱っている時に漬け込んでそのせいで彼は大きな勘違いをした。
だけど、いずれ
勘違いに気がつくのだ。
気の迷いだったのだと。
そのときにはもう遅い。
彼は僕には言い出せずに無理して付き合い続ける。
そんな彼の苦しむ姿を見て
僕は苦しむのだ。
どうして、彼女のところへ真っ先に行ってくれなかったんだ。
なんでこんなところに来たんだ。
突き放してくれたら、
君のことを少しだけでも忘れられるかもしれないのに。