エスキス アムール
第38章 彼の想ひ
「波留くん…炒飯…」
「こんなときに炒飯?」
そういえばと我に返り、状況を見てみると、向かい合って抱き合いながら、波留くんは僕の首に唇を落としている。
その状況が恥ずかしくなって、炒飯と言ってみたものの、彼がそれを許してくれるはずもなかった。
いつもは僕が彼をからかって、彼が照れて面白がっているのに、立場がすっかり逆転してしまった。
首を這う唇はどんどん上に上がってきて、顎、頬、瞼、額まで来ると、今度は鼻の頭まで下りてきて、唇にまで到達する。
彼は僕の唇をやさしく啄んで離すと窺うように僕を見つめた。
この先に進んでもいいかと
その瞳は聞いている。
煽るようなその瞳に、僕の身体は奥の方から熱が湧き上がってきた。
自分の身体が、心が、彼を抱きたいと言っている。
「もう、止まらないけど…いいの…?
本気で離せないけど…いいの…?」
「いいよ。離さなくていい。
離すなよ。絶対」
恐る恐る聞く僕に、彼は力強くそう答えた。
恐る恐る、唇を寄せる。
少し触れると、彼の唇が誘うように開く。
そこに舌を滑るこませると、すぐに柔らかい感触が僕の舌に絡んできた。
ああ、この感覚だ。
柔らかい感触から熱い熱い何かがどっと流れてく感じがする。
気持ちのあるキスというのはどうしてこうも違うのだろうか。
もうだめだ。
もう、とめられない。
「んん、ふ…う…ん、ん」
舌を絡ませて、上あごを撫で歯列をなぞる。
それだけで彼は声をあげて身体を震わせた。
だんだん形勢も逆転してくる。
唇を離して覗き込むと、
「さ、わって…きさらづ……っ」
彼は泣きそうな顔をして、僕に体を擦りつけた。