エスキス アムール
第39章 ハッピーバースデイ
「…波留くん、キスしたんだって?
その、良子ちゃんと。」
「…っ!」
皮肉めいて言うと、
彼はなんで知ってるの?
とでも言うように、目を見開いて泳がせた。
…わかりやす。
「僕がいないと思って、浮気?」
「う、浮気じゃなくて…」
「じゃあ何?どんなふうにした?」
その言葉に俯くと、もう言い訳の言葉も出ずにただ、謝り続ける。
きっと、彼女のために黙っているつもりだろう。
女性にとって、ファーストキスは
大事なモノだろうと考えて。
だけどそんなことは許さない。
「どんなふうにしたんだよ」
「……」
「ねえ」
波留くんは、泣きそうな顔をしながら、瞳をゆらゆらと揺らした。
「どんなふうにしたか、僕にしてって言ってるだけなんだけど。」
「ごめん…っごめん…」
謝れと言っているわけではない。
あの時は彼女の所に行くと思って、僕は家を出ていた。
事実上、僕たちは別れていたのだ。
勝手に僕が出ていったのだし、その間彼が誰と何をしようが、僕が怒れることではない。
この僕が彼を責めている状況は、どう考えてもおかしいのに、彼はどんどん追い詰められていった。
「できないの?
三嶋にはできて僕にはできないんだ?」
「ちがう!ちがう…」
「じゃあやってよ」
「…、」
困った顔をして僕を見つめる。
そんな顔をされたら、めちゃくちゃにしたくなるだろう?
すぐ目の前にある唇に吸い付きたくて仕方がなかった。