エスキス アムール
第39章 ハッピーバースデイ
嫉妬はしている。
だけど彼は悪くない。
だから怒ってはいなかった。
ただ、波留くんが困った顔をしているのを見るのがたまらなく楽しい。
目をそらして、徐に溜息をついてみると、彼は僕が気を悪くして怒っていると勘違いしているようだった。
「木更津…」
「……。」
「ねえ、木更津ってば…」
「……」
無視していると、どんどんと焦っていく。
どうして仕事になると、あんなに落ち着いて駆け引きだって出来るのに、プライベートになると嘘も見抜けなくなるのか、不思議だ。
「きさらづ…」
「…。」
なんか可哀想になってきちゃったけど、とりあえず無視をしてお風呂に入りに行こうとした。
「あ…」
立ち上がって扉に向かうと、彼の寂しそうな声がリビングに響く。
なんかこれじゃあ、僕がいじめてるみたいだ。
まあいじめてるんだけど。
「まって…ね、まって…」
「……。」
「やだ…ね、まって……」
「……。」
「なんでもする。
なんでもするから…っ
二度としないから!
誰ともキスしないから…
お願いだから…、どこにもいかないで…っ」
彼は僕に抱きつくと、涙を流しながら声を震わせた。
突然抱き付かれて、ドキドキする。
怒ってなんかないのに。
もう、愛しくて仕方がない。