エスキス アムール
第40章 親友と部下
「え!!!」
その人の姿を見て目を見開いた。
まさに今、一瞬思い浮かんだが、迷惑はかけられないと思い直した人物だ。
喉から手が出るほどほしかった経験者が目の前にいる。
「なんで、いんの?え?仕事は?え?」
パニックになりながら、言葉を紡ぐと彼は笑った。
「仕事辞めてきた。」
「…………は?」
「ここで雇ってくれない?」
そういう彼を呆然と見つめる。
唐突すぎて、何がなんだかさっぱりわからなかった。
そんな俺に、彼は大丈夫か?と目の前で手を振る。
「お前からニューヨーク行の話聞いた時から考えてた。
向こうの仕事が一段落したからさ、やめて、来た。
だから、雇ってほしい。」
「で、でも…給料もまだロクに…」
喉から手が出るほどほしかったはずなのに、いざ雇うとなると躊躇する。
来てからまだ3分くらいしかたっていない。
躊躇うに決まっている。
誰だってそうだと思う。
だって、彼にはこれから結婚をする相手だっているのだ。
それを…
「俺、またあそこで働けて嬉しかったよ。
でもさ、気が付いたんだ。何か違うって。それでわかった。
……俺、お前の下で働きたいんだよ。給料なんてなくてもいいよ。
お前をサポートしたい。」
だから雇ってください。
そう熱く語って頭を下げる、その男に涙が出そうになった。
ふらふらせずに彼女の所に行けと言われたあの日以来、彼とは会わないようにしていた。
ニューヨークに来る日も何にも言わずに一人でここに来た。
心配してくれた彼に申し訳ないと思っていたが、今また、あの時の後悔のようなものが湧き上がってくる。
相変わらず暑い。
汗が止まらない。
それは彼も同じだった。
汗をだらだらとたらしながら、目の前で頭を下げている。
頭を下げるのはこっちの方だ。
こんなところに来て働いてくれるっていうんだから。
俺はありったけの力を込めて、頭を下げた。
「ここで、一緒に働いてください。
ありがとう。本当にありがとう。
ありがとう…要…。」