エスキス アムール
第40章 親友と部下
お風呂から上がって、リビングに入ると、冷房が利いていてとても涼しかった。
すこしその空気が、僕の苛立ちを抑えてくれそうな気がした。
けれども、すべてが引いたわけでもなく、リビングの扉を力を込めて閉めると、その音に波留くんの肩がビクリと反応する。
恐る恐るこちらを向いたその顔は、水でも飲んだのか先ほどの赤味は大分引いている。
そんなに怖がらなくてもいいのに。
そう思うけど、そうさせているのはこの僕だ。
つくづくいやなやつだと思う。
そんな彼に何も言わずにテーブルに着くと、そこには彼が作ってくれた冷製パスタとスープが並んでいた。
おいしそう
小さくつぶやくと、気を張っていた彼の顔が少し緩む。
その顔を見つめれば、すぐにまた顔がこわばった。
「なんでそんな顔するの?」
「…そんな、顔…?」
気が付いていなかったのか、しきりに自分の顔を触り始める。
「僕が怖い?」
「…怖くないよ」
「じゃあ、なにその顔」
苛立ちを出せば、また彼の顔はこわばる。
本当は笑っていてほしいのに、今、彼から僕は笑顔を奪うことしかできていない。
嫉妬もあるけれど、自分自身への苛立ちが大きく占めていた。
「ごめん…、俺…言いたくないわけじゃないんだ木更津のこと…」
「もういいよ。怒ってない」
要くんに言わなかっただけならこんなに怒っていないはずだ。
だけど彼女のことは話しているのに、僕のことは話していない。
その事実に腹が立っている。
つまり、まだ、彼女に嫉妬しているのだ。
そんなこと、彼に言えるはずがない。
彼は彼女に会えるチャンスを捨ててまでここに来てくれたというのに。